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IBUKI通信[第9号]より情報をお届けいたします。2019年4月

ごあいさつ

 平素はライソゾーム病のスクリーニング検査にご高配を賜り、厚くお礼申し上げます。福岡県にてこの2019年4月よりこれまでのファ ブリー病、ポンペ病に合わせ比較的患者様が多いゴーシェ病及びムコ多糖症I・II型を追加した5項目での検査を開始することを124の分娩取扱い施設(99%)にてご賛同頂くことができました。検査開始に向けてご理解、ご支援をいただきました福岡県産婦人科医会、また分娩取扱い施設の皆様に心より感謝申し上げます。
 追加した3疾患を含めいずれの疾患も症状が進行してしまってからでの治療では、治療効果が限定されてしまうことがあります。発症前に見つけて治療が開始できれば、同じ治療をするにしても患者さんが受ける治療の効果・メリットは大きく違うこととなります。
 患者様が埋もれることなく検査で見つかり早期に適切な治療を受けることにより、日常生活におけるQOLが改善されることを願いつつ、検査状況の報告をさせていただきます。

一般社団法人IBUKI理事長 廣瀬 伸一 (福岡大学医学部小児科 主任教授)

実施状況

井上貴仁先生image福岡大学病院小児科
准教授井上 貴仁

 本検査は、福岡県産婦人科医会のご支援の下、各分娩取扱い施設様のご協力と保護者の方々のご理解を得ながら実施させていただいており、契約施設における直近の検査希望率は94%程度となっています。2014年7月に検査を開始以来、2019年3月末までに120,669名の新生児を検査いたしましたので、その状況を報告させていただきます。
 検査開始以来、ファブリー病スクリーニングでは精密検査が必要となった児は37名で、12名がファブリー病、8名は異常なしと診断され、13名が経過観察中、3名が精査中、1名が精密検査中止、という状況です。
 同様に、ポンペ病スクリーニングでは精密検査が必要となった児は48名で、37名が経過観察中、6名は異常なしと診断され、5名が精査中です。
 また、早期に診断できた患者様や経過観察中のお子様は、当院他にて適切にフォローされており、ご家族の安心にも繋がっていることに私共も意義を感じており、ご協力をいただいています皆様方には心より感謝 申し上げます。
 なお、2019年4月から追加されたゴーシェ病、ムコ多糖症I・II型の検査実績は次回より報告させて頂きます。

  • ファブリー病スクリーニング

    福岡県 研究項目受検数 要精密数 確定数 発見頻度
    2014年度(7月~3月) 8,487 5 3 1/2,829
    2015年度(4月~3月) 15,725 9 1 1/15,725
    2016年度(4月~3月) 22,780 9 1 1/22,780

    2017年度(4月~3月)

    36,229 11 6 1/6,038
    2018年度(4月~3月) 37,448 3 1 1/37,448

    患者発見頻度1/10,055(120,669名検査、12名発見)

  • ポンペ病スクリーニング

    福岡県 研究項目受検数 要精密数 確定数 発見頻度
    2014年度(7月~3月) 8,487 8 0 -
    2015年度(4月~3月) 15,725 8 1※1 -
    2016年度(4月~3月) 22,780 13 0 -
    2017年度(4月~3月) 33,229 16 0 -
    2018年度(4月~3月) 37,448 3 0 -

    ※1 第3号(2016年4月)にて確定と報告しましたが、現在経過観察中

ファブリー病ポンペ病新生児マススクリーニングのご報告(2014~2018年)

2014年から実施してきましたファブリー病ポンペ病新生児マススクリーニングについて実績を整理し報告書を作成致しました。一部抜粋等にて以下お示しします。

平成31年1月吉日

分娩取扱い施設
施設長並びにご担当者様

福岡大学医学部小児科 主任教授 廣瀬 伸一
福岡大学医学部小児科 福岡大学西新病院小児科 准教授 井上 貴仁

 ファブリー病、ポンペ病ともわが国で治療可能なライソゾーム病で、現在全国で900名のファブリー病患者が、ポンペ病では90名の患者が酵素補充療法を受けており、その有効性が確認されています。しかし、症状は緩徐進行性であり、病初期は軽微な症状のため気がつかず初めて症状を自覚した時点では、すでに全身に障害が及び、症状が進行して臓器不全に至ってしまうと酵素補充療法は無効で、いかに早期診断するかが課題でした。この問題を解決するため2007年から2010年までファブリー病新生児マススクリーニングのパイロットスタディを行い、それまでまれな疾患とされていた本症が予想をはるかに上回る7000人に1人という高い頻度で存在することをわが国ではじめて明らかにしました。2014年からはファブリー病とポンペ病の新生児マススクリーニングを開始しました。福岡県の産婦人科の先生方のご協力により、2018年12月時点で、福岡県の99%の産科医療施設でファブリー病ポンペ病新生児マススクリーニングが実施可能となり、検査同意率は94%に達し、受検者は112,873名となりました(全国最大規模)。ファブリー病の要精密児は37名で、このうち12名がファブリー病と診断が確定し、2007年~2010年のパイロットスタディ時と同様の有病率が確認されました。一方ポンペ病は47名が要精密となりましたが、診断確定例はまだいません。
 2019年4月からはゴーシェ病、ムコ多糖症I型(ハーラー病)、ムコ多糖症II型(ハンター病)を加え、5疾患に拡大した新生児マススクリーニングを予定しています。
 引き続き予後改善を目的とした早期診断のためのライソゾーム病新生児マススクリーニングへのご理解とご協力をよろしくお願いいたします。

ライソゾーム病新生児スクリーニング

  1. 2014年7月

    • ファブリー病
    • ポンペ病
  2. 2019年4月

    • ファブリー病
    • ムコ多糖症I型
    • ポンペ病
    • ムコ多糖症II型
    • ゴーシェ病

病気の概要と疫学

  • ゴーシェ病

     グルコセレブロシダーゼ(別名β-グルコシダーゼ)の遺伝子変異によりグルコセレブロシダーゼ活性が低下あるいは欠損し、その基質であるグルコセレブロシドが組織に蓄積するスフィンゴリピドーシスのひとつで常染色体劣性遺伝形式をとります。グルコセレブロシドは、体中のマクロファージに蓄積し、肝脾腫、骨痛や病的骨折、中枢神経障害を引き起こします。
     日本における有病率は33万人に1人とされています。症状と発症時期によりI型(非神経型)、II型(急性神経型)、III型(亜急性神経型)に分類され、日本では欧米に比べ神経型が多く過半数を占めます。

  • ムコ多糖症I型

     グリコサミノグリカン(ムコ多糖)のデルマタン硫酸(DS)とへパラン硫酸(HS)の分解に必要なライソゾーム酵素であるα -L-iduronidaseの先天的欠損により発症する常染色体劣性遺 伝性疾患です。特異的顔貌、精神運動発達障害、角膜混濁、肝臓、脾臓の腫大などの全身症状を呈します。
     日本における発症頻度は約10万人に1人とされ、約70症例が報告(2015年5月現在)されています。発症時期、重症度からMPS1H(Huler型)、MPS1S(Scheie型)、MPS1H/S(Huler-Scheie型)に分類されますが、それらの病型の境界は、明確ではありません。

  • ムコ多糖症II型

     グリコサミノグリカン(ムコ多糖)のデルマタン硫酸(DS)とへパラン硫酸(HS)の分解に必要なライソゾーム酵素である Iduronate-2-sulfataseの先天的欠損により発症するX連鎖性遺伝性疾患です。Huler病と共通するムコ多糖症特有の症状・経過を示すが、全般的にHuler病より症状・所見は軽く、角膜混濁は原則としてみられません。
     日本における発症頻度は約5万人に1人とされ、約200症例が報告(2015年5月現在)されています。重症型と軽症型、中間型に区分されます。

出典:右記のホームページを参考にしました。小児慢性特定疾病情報センター(2019年4月12日現在)