トピックス
IBUKI通信[第10号]より情報をお届けいたします。2019年10月
ごあいさつ
平素はライソゾーム病のスクリーニング検査にご高配を賜り、厚くお礼申し上げます。福岡県にてこの2019年4月よりファブリー病、ポンペ病に合わせ比較的患者様が多いゴーシェ病及びムコ多糖症I型、II型を追加した5項目での検査を開始しました結果、122の分娩取扱い施設にご参加いただいております。検査開始に向けてご理解、ご支援をいただきました福岡県産婦人科医会また分娩取扱い施設の皆様に心より感謝申し上げます。
ライソゾーム病においては、現在検査を行っている5疾患などに対する酵素補充療法が保険診療として行われるようになり、更に新しい治療法も進んでいる状況です。しかし、症状が進行してしまってから治療すると、治療の効果が限定されてしまうことがあります。発症前に見つけて治療を開始できれば、同じ治療をするにしても患者さんが受ける治療の効果・メリットは大きく違うと感じます。
4月開始早々にムコ多糖症II型疑い児が見つかり、当院にて確定診断をし治療を開始した事例が発生致しました。患者様が埋もれることなく早期発見され早期治療となりましたことは幸いでございました。早期診断・早期治療により、日常生活におけるQOLが改善されることを願いつつ、検査状況の報告をさせていただきます。
一般社団法人IBUKI理事長 廣瀬 伸一 (福岡大学医学部小児科 主任教授)
実施状況
福岡大学病院小児科
准教授井上 貴仁
本検査は、福岡県産婦人科医会のご支援の下、各分娩取扱い施設様のご協力と保護者の方々のご理解を得ながら実施させていただいており、契約施設における直近の検査希望率は92%程度となっています。以下のとおり実施状況を報告させていただきます。
ファブリー病及びポンペ病スクリーニングは2014年7月に検査を開始以来、2019年8月末までに135,904名の新生児を検査いたしました。検査開始以来、ファブリー病スクリーニングでは精密検査が必要となった児は39名で、12名がファブリー病、8名は異常なしと診断され、14名が経過観察中、4名が精査中、1名が精密検査中止、という状況です。
同様に、ポンペ病スクリーニングでは精密検査が必要となった児は49名で、39名が経過観察中、7名は異常なしと診断され、1名が未受診、2名が精査中です。
上記検査項目に加え、2019年4月より、ゴーシェ病、ムコ多糖症I型、ムコ多糖症II型の3項目を追加し、検査を実施しております。検査開始以来、2019年8月末までに、15,235名の新生児を検査いたしました。ゴーシェ病スクリーニングでは精密検査が必要となった児は0名でした。ムコ多糖症I型スクリーニングでは精密検査が必要となった児は1名で、1名が精査中です。ムコ多糖症II型スクリーニングでは精密検査が必要となった児は11名で、1名がムコ多糖症II型、10名が精査中です。
今回、項目追加後にムコ多糖症II型検査にて要精密児が発生し、当院を受診頂いた結果、1名診断確定となりました。既に治療を開始なされております。本件含め、早期に診断できた患者様や経過観察中のお子様は、当院他にて適切にフォローされており、ご家族の安心にも繋がっていることに私共も意義を感じており、ご協力をいただいています皆様方には心より感謝申し上げます。
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ファブリー病スクリーニング
福岡県 受検数 要精密数 確定数 発見頻度 2014年度(7月~3月) 8,487 5 3 1/2,829 2015年度(4月~3月) 15,725 9 1 1/15,725 2016年度(4月~3月) 22,780 9 1 1/22,780 2017年度(4月~3月)
36,229 11 6 1/6,038 2018年度(4月~3月) 37,448 3 1 1/37,448 2019年度(4月~8月) 15,235 2 0 - 患者発見頻度1/11,325(135,904名検査、12名発見)
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ポンペ病スクリーニング
福岡県 受検数 要精密数 確定数 発見頻度 2014年度(7月~3月) 8,487 8 0 - 2015年度(4月~3月) 15,725 8 1※1 - 2016年度(4月~3月) 22,780 13 0 - 2017年度(4月~3月) 33,229 16 0 - 2018年度(4月~3月) 37,448 3 0 - 2019年度(4月~8月) 15,235 1 0 - ※1 第3号(2016年4月)にて確定と報告しましたが、現在経過観察中
- 新規検査項目の実施状況
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ゴーシェ病スクリーニング
福岡県 受検数 要精密数 確定数 発見頻度 2019年度(4月~8月) 15,235 0 0 - -
ムコ多糖症Ⅰ型(MPS1)スクリーニング
福岡県 受検数 要精密数 確定数 発見頻度 2019年度(4月~8月) 15,235 1 0 - -
ムコ多糖症Ⅱ型(MPS2)スクリーニング
福岡県 受検数 要精密数 確定数 発見頻度 2019年度(4月~8月) 15,235 11 1 1/15,235 患者発見頻度1/15,235(15,235名検査、1名発見)
患者と家族の会主催セミナーのご報告
一般社団法人「全国ファブリー病患者と家族の会」(別称:ふくろうの会)主催の「九州ブロック福岡オープンセミナー2019」が、令和元年6月16日(日)福岡大学病院にて開催されました。ふくろうの会は、難病医療推進を通じ、患者と家族が一体となって医療の発展と向上に寄与し、また医療サービスの地域間格差を是正し、会の発展とあわせて会員相互の融和と親睦をはかることを目的として2002年に設立された組織です。会では、セミナーの開催やホームページの運営を行い、少しでも患者・家族のQOLの向上、悩みや不安を軽くできるよう活動されています。
「ネットワーク会議2019」のご報告
本会議は、九州地区の医師、医療関係者に対して、新生児マススクリーニングに関わる分野の事項を最新の知識とともにわかりやすく解説し、同時に地域の新生児スクリーニング対象疾患の診断と治療の知識を高めることを目的として開催されています。
ムコ多糖症Ⅰ型・Ⅱ型の症状
体内のムコ多糖を分解するライソゾーム酵素が欠損することにより全身にムコ多糖が蓄積し、多様な臨床症状を呈します。
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Ⅰ型:Hurler/Schieie症候群
発症時期、重症度から3病型に分類されますが、境界は明瞭ではありません。
〈Hurler病〉生後6か月から2歳ごろまでに発現し、病態の進行も早い重症型。生直後から特徴的顔貌(大きな頭、前額の突出、巨舌)、胸郭の変形、肝脾腫、広範で体全体に広がる蒙古斑などを認めます。乳児期には精神運動発達遅滞、心臓弁膜症、角膜混濁、磨・鼠経ヘルニア、騒音呼吸などの全身症状を呈します。乳幼児期は、加成長を呈する症例が多いのです
が、3-4歳以降は成長速度が低下し、低身長に転じます。
〈Scheie病〉5歳以降に発現することが多く、病態の進行も緩徐です。特徴的顔貌、角膜混濁、緑内障、閉塞性呼吸障害、心臓弁膜症、などの全身症状が学童期以降に出現し加齢とともに進行しますが、知的障害を伴わないのが特徴的です。
〈Hurler/Scheie病〉3~8歳ごろに発現し、Hurler病とScheie病のほぼ中間の臨床像を示します。 -
II型:Hunter症候群
Hurler症候群と共通するムコ多糖症特有の症状・経過を示しますが、全般的に症状・所見は軽く、角膜混濁は原則としてみられません。
〈乳児期〉広範な蒙古斑・局所性蒙古斑、反復性の中耳炎、膀・鼠経ヘルニアが認められ、乳児期後半には身長、体重、頭位が+2SDを超える例が多くあります。
〈幼児期〉加成長傾向を示します。特徴的顔貌(頭位拡大、側頭・前頭の膨隆、鞍鼻など)アデノイド肥大、騒音呼吸、多毛、粗な皮膚を呈します。畝状の皮膚肥厚は本症に特徴的です。手指拘縮(鷲手)、脊椎後弯が認められるようになり、僧帽弁・大動脈弁閉鎖不全も出現します。
〈学童・思春期〉成長は学童期以降鈍化し、小学校高学年でほぼ停止します(重症型では最終身長は110~130cm程度)。軽症型では、知的発達はほぼ正常ですが、QOLの低下で学業・就労が困難な例もあります。重症型では6-7歳をピークに退行を認める例が多くあります。
〈成人期〉軽症型では知能は保たれていますが、弁膜症、気道狭窄、難聴、視力障害などが進行してQOLが低下します。重症型では脳障害が進行し死亡する例が増えます。
出典:右記のホームページを参考にしました。小児慢性特定疾病情報センター(2019年9月20日現在)