トピックス

「つなぐだより福岡」〈第2号〉 2021年6月

ごあいさつ

謹啓 時下、皆様にはますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
 平素は弊社の新生児スクリーニング検査にご支援、ご協力を賜り、厚く御礼申し上げます。
 さて、福岡県にて2019年4月より5項目のライソゾーム病スクリーニング検査を開始して、現在126施設にご参加頂いております。検査継続にご尽力頂いています福岡県産婦人科医会様また分娩取り扱い施設の皆様、検査にご理解を頂いた保護者の皆様、さらに実施主体(一般社団法人 IBUKI様)に心より感謝申し上げます。
 この検査体制の中で、新たにポンペ病の乳児型の診断が確定した患者様を1名見つけることができました。引き続き患者様が埋もれることなく検査で見つかり早期に適切な治療を受けられることにより、日常生活におけるQOLが改善されることを願いつつ、検査状況の報告をさせていただきます。
謹白

KMバイオロジクス株式会社
新生児スクリーニングセンター長 山内 芳裕

ご案内

「九州先天代謝異常症診療ネットワーク会議2021」

image

 新生児スクリーニングの対象疾患の診断や治療の進歩は著しく、専門医、小児科医、産婦人科医、家族における情報の交換がより必要とされています。本会議は、九州地区の医師、医療関係者に対して、新生児マススクリーニングに関わる分野の事項を最新の知識とともにわかりやすく解説し、同時に地域の新生児スクリーニング対象疾患の診断と治療の知識を高めることを目的として開催されています。尚今年度はZoomとYouTubeを併用した限定オンラインでの開催を検討中とのことです。

福岡地域における
新生児スクリーニングにて
乳児型ポンペ病患児が
見つかりました

 2014年7月より福岡地域においてポンペ病の新生児スクリーニングが行われており、2021年3月までに191,932名を検査し、2020年度上期に1名、重症型である乳児型ポンペ病患児が見つかりました(1/191,932)。新生児スクリーニングにより発症前に乳児型ポンペ病を診断した例としては国内で初めてとなります。現在、専門医療機関にて酵素補充療法等の治療が開始され、大きな治療効果が確認されているとお話を伺っております。

ポンペ病とは

 ポンペ病は酸性α-グルコシダーゼという酵素の働きが弱い、あるいは酵素がないためにグリコーゲンが蓄積して起こる遺伝性の筋肉の病気です。主に骨格筋が侵され、重症型である乳児型では筋緊張低下(フロッピーインファント)による運動発達の遅れ、哺乳困難、発育不全が主症状で、進行すると呼吸不全、心不全により急速に悪化します。遅発型(小児・成人型)では近位筋力低下、早朝の頭痛に始まり、進行するにつれて歩行障害、更には起立障害、呼吸筋の機能不全による呼吸困難を呈するようになります。
 ここでは新生児期の治療時期よる治療効果の違いに関する内野俊平先生(東京都立神経病院)の重要な症例報告*をご紹介致します。

 姉は生後2ヵ月より哺乳力の低下、3ヵ月時に筋緊張低下、心筋肥大により病院受診し、酵素活性測定での低値、遺伝子検査の結果にてポンペ病と診断が確定した。生後5ヵ月より酵素補充療法(ERT)を開始し、心臓機能など一部改善したが、上下肢の運動は乏しいままで3歳過ぎに呼吸管理が必要な状態となった。
 一方弟は、家族歴より乳児型ポンペ病を疑い、遺伝子検査にて姉と同一の変化が認められポンペ病と診断された。生後1ヵ月からERTを開始したところ姉と同様に心臓の機能が改善した。ERT開始後筋力とともに哺乳も改善、運動発達も良好で19ヵ月で独歩を獲得することができた。
 新生児期に早期診断・治療開始した場合には、生存率、呼吸・運動機能も改善すると報告されているが、本症例でもERTをより早期に開始することでより大きな治療効果を期待できることが確認された。
(発症前に病気を見つけて治療介入するためにも新生児スクリーニングの重要性が再確認できた症例である)

*出典:日本ポンペ病研究会記録集2008-2015,2016;株式会社診断と治療社,p.91

実施状況

本検査は、福岡県産婦人科医会のご支援の下、各分娩取扱い施設のご協力と保護者の皆様のご理解を得ながら実施主体である一般社団法人 IBUKIにて運営なされており、契約施設における直近の検査希望率は92%程度となっています。以下のとおり実施状況をご紹介させていただいます。
 ファブリー病及びポンペ病スクリーニングは2014年7月に検査を開始以来、2021年3月末までに191,932名の新生児が検査なされました。検査開始以来、ファブリー病スクリーニングでは精密検査が必要となった児は53名で、15名がファブリー病、8名は異常なしと診断され、19名が経過観察中、10名が精査中、1名が精密検査中止、という状況です。同様に、ポンペ病スクリーニングでは精密検査が必要となった児は66名で、1名がポンペ病、49名が経過観察中、8名は異常なしと診断され、1名が未受診、7名が精査中です。
 上記検査項目に加え、2019年4月より、ゴーシェ病、ムコ多糖症I型、ムコ多糖症Ⅱ型の3項目を追加し実施されています。検査開始以来、2021年3月末までに、71,263名の新生児が検査なされました。ゴーシェ病スクリーニングでは精密検査が必要となった児は1名で、この1名がゴーシェ病と診断されました。ムコ多糖症Ⅰ型スクリーニングでは精密検査が必要となった児は5名で、5名が経過観察中です。ムコ多糖症Ⅱ型スクリーニングでは精密検査が必要となった児は45名で、1名がムコ多糖症Ⅱ型で生後3か月より酵素補充療法を開始なされました。28名が経過観察中、9名は異常なしと診断され、5名が精査中です。

  • ファブリー病スクリーニング

    福岡県 受検数 要精密数 確定数 発見頻度
    2014年度(7月~3月) 8,487 5 3 1/2,829
    2015年度(4月~3月) 15,725 9 1 1/15,725
    2016年度(4月~3月) 22,780 9 1 1/22,780

    2017年度(4月~3月)

    36,229 11 6 1/6,038
    2018年度(4月~3月) 37,448 3 1 1/37,448
    2019年度(4月~3月) 36,226 8 2 1/18,113
    2020年度(4月~3月) 35,037 8 1 1/35,037

    患者発見頻度1/12,796(191,932名検査、15名発見)
    〈参考〉患者発見頻度:1/11,100(432,918名検査、39名発見)(福岡、熊本での実績集計)

  • ポンペ病スクリーニング

    福岡県 受検数 要精密数 確定数 発見頻度
    2014年度(7月~3月) 8,487 8 0 -
    2015年度(4月~3月) 15,725 8 0 -
    2016年度(4月~3月) 22,780 13 0 -
    2017年度(4月~3月) 33,229 16 0 -
    2018年度(4月~3月) 37,448 3 0 -
    2019年度(4月~3月) 36,226 3 0 -
    2020年度(4月~3月) 35,037 15 1 1/35,037

    患者発見頻度1/191,932(191,932名検査、1名発見)
    〈参考〉患者発見頻度:1/316,615(316,615名検査、1名発見)(福岡、熊本での実績集計)

  • ゴーシェ病スクリーニング

    福岡県 受検数 要精密数 確定数 発見頻度
    2019年度(4月~3月) 36,226 1 1 1/36,226
    2020年度(4月~3月) 35,037 0 0 -

    患者発見頻度1/71,263(71,263名検査、1名発見)
    〈参考〉患者発見頻度:1/33,688(134,752名検査、4名発見)(福岡、熊本での実績集計)

  • ムコ多糖症Ⅰ型(MPS1)スクリーニング

    福岡県 受検数 要精密数 確定数 発見頻度
    2019年度(4月~3月) 36,226 2 0 -
    2020年度(4月~3月) 35,037 3 0 -
  • ムコ多糖症Ⅱ型(MPS2)スクリーニング

    福岡県 受検数 要精密数 確定数 発見頻度
    2019年度(4月~3月) 36,226 23 1 1/36,226
    2020年度(4月~3月) 35,037 22 0 -

    患者発見頻度1/71,263(71,263名検査、1名発見)
    〈参考〉患者発見頻度:1/134,741(134,741名検査、1名発見)(福岡、熊本での実績集計)

image

退職にあたって

 「つなぐだより第2号」をご覧頂き、有難うございます。
 私は弊社新生児スクリーニングセンター(以下、当センターと略)の検査課に本年3月末まで勤務し4月に退職しました「田崎隆二」と申します。
 現在の従業員の中では私が最も長く新生児マススクリーニング検査(以下、NBS検査と略)に従事してきたこともあり、退職にあたり当センターのこれまでの歩みのご紹介と、次代を担う後進へ少しばかり言葉を贈りたいと存じます。当センターの新生児マススクリーニング検査(先天性代謝異常等検査)は1977年10月から、同年7月の厚生省児童家庭局長通知に基づいて開始されました。開始当初はアミノ酸代謝異常症の4疾患(フェニルケトン尿症、楓糖尿症、ホモシスチン尿症、ヒスチジン血症)とガラクトース血症の合計5疾患でした。最近になってタンデムマス型質量分析計(LC/MS/MS)を用いた幅広い成分測定がNBS検査に応用され、国内では2014年度に全ての新生児がこの機器での測定も含めたスクリーニングを受けられる体制が整いました。現在では20疾患を見つけることができます。また、当センターは新しい検査項目の研究・有料検査の取り組みにも力を入れて来ました。これらはNBS検査の拡大という観点から拡大スクリーニングと呼ぶことにします。拡大スクリーニングは熊本大学の研究項目として開始され、当センターもお手伝いをさせていただいております。近年での活動としてはファブリー病、ボンペ病に続き、ゴーシェ病、ムコ多糖症I型、Ⅱ型の測定が可能となり、2019年からはこれら5項目をライソゾーム病検査とし拡大スクリーニングを行っています。この取り組みにより、ファブリー病、ゴーシェ病などの患者が複数発見されておりますし、2020年にはポンペ病の乳児型をスクリーニングとして国内で初めて見つけることができました。以上、NBS検査が開始されてから今までの取り組みについて極簡単に述べました。
 これまでご支援、ご協力を賜りました皆様へ心より感謝申し上げます。
 さて、ここからは小欄をお借りして今後のスクリーニング業務を引き継いでくれる後輩に一言、お願いをしたいと思います。
 今後の取り組みとして検査法の改善・改良を常に心がけてもらいたいと思います。検査時間の短縮、検査工程の簡略化、定量性の高い方法への切り替えは我々検査担当者の満足度を上げたり(意識向上)、仕事への余裕を生みます。それは結局のところ検査の対象である新生児やその保護者に対しての利益につながると思います。どんな仕事も同じですが、常に前向きに取り組みましょう。また検査の精度を上げることにより、再採血を抑え、偽陽性の数を抑える取り組みも非常に重要です。再採血率が高いと新生児への負担(採血)が増え、母親(保護者)への精神的負担も増加することにも繋がるため極力低く抑えるような努力が必要です。
 先ずは上記の2点についての取り組みをお願いします。
 最後になりますが、どんな仕事も信用が第一です。産科医療機関、精査医療機関、そして行政といった関係機関から信用を得る存在になりましょう。その信用が相互の信頼につながります。謙虚な気持ちで仕事に取り組んでいってください。

image新生児スクリーニングセンター従業員一同 2021年3月